千葉地方裁判所 平成2年(行ウ)15号 判決 1991年3月20日
原告
中地平
被告
船橋公共職業安定所長三橋行夫
右被告指定代理人
飯塚実
右同
渡辺隆志
右同
鈴木秀良
右同
鈴木浩平
右同
長谷信夫
右同
内藤和夫
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
船橋公共職業安定所長が昭和六二年七月一六日に原告に対して行った同年五月二六日以降の失業給付の支給停止処分を取り消す。
第二事案の概要
一 (争いのない事実)
1 原告は、昭和六二年五月二〇日株式会社アウス(ママ)エンタープライズを離職し、同月二六日、船橋公共職業安定所に出頭し、雇用保険被保険者離職票、求職票を提出し、受給資格決定を受けて、失業給付受給資格を取得した。これに先立ち、原告は、同年五月二一日王司興産株式会社の面接を受け、同日以降毎日同社へ行き、同月二五日正式に同社に就職した。
2 被告は、同年七月一六日、原告に対し、雇用保険法三四条一項に規定する「虚偽の申告をして失業給付の支給を受けようとしたもの」に該当するとして、同年五月二六日以降の失業給付の支給停止処分(以下「本件処分」という。)を行った。
3 原告は、昭和六三年七月二九日、千葉県雇用保険審査官に対し、本件処分を不服として審査請求をしたが、審査官は、審査請求期間経過による不適法な請求であるとして、平成元年一月三一日付けでこれを却下した。原告は更に、同年三月八日、労働保険審査会に再審査請求をしたが、同審査会は審査官の却下決定を正当であるとして、平成二年五月一〇日付けで右再審査請求を却下した。
そこで、原告は、平成二年八月三〇日、失業中でないのに失業中であると虚偽の事実を申告したことはないこと、現実に失業給付の受給を受けていないこと及び就職後の昭和六二年六月二三日失業認定を受けていないにも拘わらず、失業給付支給停止処分を受けるのは不当であることを理由として、本件訴えを提起した。
二 (争点)
原告が、本件処分の通知を受け或いは本件処分を知ったのは、昭和六二年七月一六日か、昭和六三年五月三〇日であるか。
第三争点に対する判断
失業給付に関する処分の取消しの訴えについては裁決前置主義が採られているから、本件訴えは、適法な裁決を経て提起されない限り不適法却下を免れないものである(雇用保険法六九条、七一条、労働保険審査官及び労働保険審査会法八条一項)。
ところで、原告は、本件処分を知ったのは、昭和六三年五月三〇日である旨主張するが、不正受給(なお、これは、不正に失業給付を受給するだけでなく、既に就職をしているのに受給を受けようとすることも含むものである。)の疑いがある者(以下「不正受給容疑者」という。)について、被告は、これを職業安定所に呼出し、調査官が事情聴取し説明聴取書を作成し、不正受給の事実が判明すれば、不正受給容疑者を待たせている間に処分決済、公印押捺及びデータ入力を行い、不正受給容疑者に対し即日支給停止及び返還命令書並びに納付命令書を手交して処分を通知するのが通常であること、本件においても、原告は、昭和六二年七月一六日、船橋公共職業安定所で、同年五月二六日以後の失業給付は支給停止となる旨の記載がある雇用保険法第三四条、第三五条、第六一条関係聴取書(証拠略)を受け取り、右の書面には原告が署名押印していることからして、原告は、右同日(昭和六二年七月一六日)、雇用保険における失業給付の支給停止通知書(同書には不服申立についての教示が記載されている。なお(証拠略)はその原符である。)を受領して通知を受けたものと認めるのが相当であり、これに反する原告本人尋問の結果は採用しない(<証拠略>)。
したがって、原告は、本件処分に不服であれば、昭和六二年七月一七日から六〇日以内(同年九月一五日)までに千葉県雇用保険審査官に対し審査請求を行うべきであるから、右審査請求及び雇用保険審査会に対する適法な再審査請求を経ていない本件訴えは不適法であって、本案の判断に入るまでもなく却下を免れないものである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上村多平 裁判官 高橋隆一 裁判官 副島史子)